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コスタリカ

現地レポート2019❺ 平和のリーダーを養成する国連平和大学

2019.1.28

コスタリカの提案で設立された大学

世界が平和になるにはどうしたらいいのかを専門に研究する国連平和大学がコスタリカにあります。当時のカラソ大統領が国連で提案し、彼が300ヘクタールもの自分の土地を寄贈して、コスタリカの首都サンホセ郊外に創立されました。1980年のことです。

出迎えてくれたのは事務局の水野さん、日本女性です。この大学の卒業生で、今は職員です。そしてコスタリカ人のアドリアさん。広島大学で平和構築を教えた女性で、目がキラキラ輝いています。さらにのっぽのコスタリカ男性で学長のアシスタントのエドゥアルドさんの3人です。

この大学を設立した動機は、当時の中米紛争でした。カラソ大統領は「軍隊を廃止し民主主義を持っていたコスタリカには平和を構築する道徳的な義務がある」と考え、平和のリーダーを養成しようとしたのです。

2002年になって国連のアナン事務総長が、中米だけでなく世界の平和に目を向けた大学にしようと考えました。ここから学内の共通言語が英語になり、広く世界から教授、生徒を受け入れるようになったのです。大きく3つの研究課程があります。国際法、平和と紛争解決、環境と発展です。今現在、世界の58カ国から140人が来て修士課程で学んでいます。さらに10~20人が博士課程にいます。

「人々によって建設された」大学

玄関を入ると、壁に大学設立の趣旨や経緯が書かれています。そのわきに、大学を設立したさいに賛同した41か国の名が記してありますが、残念ながら日本は入っていません。

エドゥアルドさんが壁の一角にある記念碑を指さしました。コスタリカの地図の上に「人々によって建設された」とスペイン語で書いてあります。実はカラソ氏が自分の財産を投げ出したので、普通の政治家なら得意げに自分の名を入れるところでしょう。でも、彼はそうはしなかった。日本の政治家も見習ってほしいものです。

広大なキャンパスの丘に記念碑があります。コスタリカの歴代の9人の大統領の彫刻と、彼らがいかに平和に尽くしたかが記してあります。道はらせん状になっており、平和への働きかけは永遠に続くことを象徴しています。
意外な名前も
彫刻の中心に位置するのは、3つの国の内戦を終わらせて1987年のノーベル平和賞を受賞したアリアス大統領です。彼の顔の下にこんな文字が記してあります。「コスタリカの母親は幸せだ。子どもが軍人になることはないと知っているのだから」。コスタリカが軍隊を廃止したことを称えるものです。でも、そう言ったのは、あの笹川良一氏です。右翼の大物が何で?とお思いでしょう。

彼が率いた日本船舶振興会が後に日本財団と名を変え、国連平和大学の学生に奨学金を寄付しています。このため年に30人の学生がこの大学で学ぶことができるというわけ。うち半分が日本人で、他の半分は東南アジアの学生です。まあ、平和大学への寄付は、彼にとっての罪滅ぼしと思えばいいのでは。

日本人への問いかけ

僕たちは大学の教室でコスタリカの平和の歩みについて1時間の講義を受けました。途中でアドリアさんが「日本が侵略の脅威にさらされたとき、軍隊を結成することに賛成しますか? 私はコスタリカ人として、反対します」と問いかけました。

参加者が「まず、侵略しようとする国とのコミュニケーションをとるべきだ」「イラク戦争のさい、世界各地で多くの人々が戦争に反対した。日本が憲法9条を堅持すれば世界が日本を支援する」などと答えます。

アドリアさんは「平和をユートピアだと一蹴する人がいますが、平和は夢ではありません。みんながその目標に進んでいけば、達成できます」と語りました。

エドゥアルドさんが数字を示しました。2018年の「世界平和指数」です。世界163カ国のうちコスタリカは40番目です。犯罪が増えて治安が悪化しているためです。また、「法治国家指数」では、世界113カ国のうちコスタリカは24位です。コスタリカが予想より低いのは、カネがないため刑務所の施設が足りず、囚人が一つの監房に多数詰め込まれているからだそうです。要は資金の問題です。

ここで驚くのは、日本が意外と高く評価されていることです。「世界平和指数」で日本は9番目、「法治国家指数」では14位。いずれもコスタリカより上位です。社会の治安が保たれ、刑務所も囚人をゆったりと収容していることが評価されたとか。いやいや、それ以前に憲法9条を「今も」堅持していることが大きな評価の根底にあるのです。
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写真=平和大学のキャンパスのモニュメントとアドリアさん
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