Song Stories

ハワイ

米国に奪われた楽園を歌う「アロハ・オエ」

ハワイに行くと必ず見られるのが虹だ。スコールが降ったあとの空に大きく華やかなアーチを描く。車のナンバープレートにも虹のマークがある。虹を見ていると、どこからかこの曲が流れてくる。いかにも南国の、幸せな気分に浸れる。

ポリネシアの言葉でアロハは「さようなら」、オエは「あなたに」。つまり愛する人との別れを惜しむ歌だ。ついでに言えば、ハワイは本来「ハワイイ」で、「故国」という意味である。歌詞の冒頭は「雨が断崖をよぎり、森の中を通り抜けて行く」と歌う。別れを告げる恋人たちの目には、雨のあとの虹が映っていただろう。

作者は、「その名も偉大な」と歌われたカメハメハ大王の血を引くリリウオカラニ女王だ。馬に乗って牧場に遊びに行き、帰ろうとして振り向いたとき、美しい娘が男性の首にレイをかけ、別れの口づけするのを目にした。帰途、馬上でハミングしながら作詞作曲したのが、この歌だと伝えられる。

その女王からハワイの支配権を奪ったのが、帝国主義に乗り出したばかりの米国だ。海兵隊が上陸しハワイ政庁舎に星条旗を掲げ、王女を武力で無理やり退位させた。ハワイに広大な土地を持っていた米国人の砂糖農園主の要請を受けたクーデターである。1893年のことだ。

翌年にはハワイ共和国の成立を宣言し、さらに98年の米西戦争のどさくさで、ハワイを米国に併合してしまった。ここから米国の太平洋進出が本格化し、太平洋の権益を争って日本との戦争に発展していく。

女王の父で先代のカラカウア王は、米国の邪悪な意図を見越していた。同時に、日本人もハワイ人と同じく太平洋の同胞だと親近感を抱いていた。このままでは米国の植民地になると考えた王は、奇策を思いついた。

明治14年に日本を訪れたさい、極秘のまま通訳だけを伴って夜間、明治天皇に至急の会見を申し入れ、カイウラニ王女と山階宮定麿王(やましなのみやさだまろおう)との婚儀を申し入れたのだ。日本との絆を深めて米国に対抗しようとしたわけである。これを日本が受け入れていれば、太平洋戦争のさいに真珠湾を攻撃するどころか、真珠湾から米国に攻撃できていただろう。

明治政府はこれを断った。しかし、日本人のハワイ移民を奨励する提案は受け入れたため、4年後に官約ハワイ移民が実現する。その後、20年足らずで日系移民はハワイの人口の4割を占めるほどに膨らんだ。ここから米国は危機感を抱き、ハワイの併合を急いだのだ。

ハワイに行くならビショップ博物館を訪れよう。伝統文化の展示とともに、悲劇の女王の自筆の楽譜を見ることができる。





アロハ・オエ

雨が誇らしげに尾根を横切り
森の中を通り抜けていく
未だ開かぬ蕾を探しているかのように
山あいに咲くレフアの花よ

あなたにアロハ あなたにアロハ
木の陰にたたずむ心優しき人
去っていく前に
もう一度あなたを抱きしめよう
また会えるその時まで

懐かしく暖かい思い出が胸をよぎる
ついこの間のことのように
愛する人よ 我が愛しき人よ
真心は決して引き裂くことはできない

私はあなたの素晴らしさをよく知っている
マウナヴィリに静かに咲くバラの花
そこにいる啼かない鳥たち
そして木の陰にいる美しい人

あなたにアロハ あなたにアロハ
木の陰にたたずむ心優しき人
去っていく前に
もう一度あなたを抱きしめよう
また会えるその時まで

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